新・裁判例 相続税申告業務を依頼された税理士に損害賠償を命じた案件(令和元年11月1日掲載)
最高裁判所の判決を判例と言ったりしますが、最高裁以外の裁判所の判決は裁判例と言ったりします。
東京地裁・平成30年2月19日判決
(判決要旨)
「相続税申告業務における小規模宅地等の特例の適用に
関する税理士の方法選択について、善管注意義務違反を
認め、損害賠償責任を肯定した。」
小規模宅地等の特例とは、“ 亡くなった人が住んでいた土地、事業をしていた土地、貸していた土地について、一定の要件を満たす人が相続したときに最大80%オフできる特例 ” のことです。
本件訴訟では、税理士に相続税の申告を依頼したところ、その税理士が小規模宅地等の特例を適用せずに申告してしまったという事案です。
一部の相続人は、別の税理士に更正請求を依頼して相続税全額が還付されたが、その別の税理士の報酬として87万2800円かかり、
その他の相続人は、更正請求等を行わなかったため、適用していれば相続税額がゼロだったのに、適用しなかったために130万4200円の相続税が支払われたままになってしまいました。
原告は、小規模宅地等の特例を適用しなかった税理士に対して、
①相続税として支払われて、支出されたままの130万4200円
②別の税理士に更正請求を頼んだ報酬87万2800円
③小規模宅地等の特例を適用しなかった税理士に支払った報酬91万8000円
を支払えという訴えを提起しました。
このうち、
①については、
税理士の善管注意義務違反を認め、130万4200円を損害として、全額の支払いを小規模宅地等の特例を適用しなかった税理士に命じ、
原告の請求を全て認めました。
②については、
別の税理士の報酬は、依頼人である原告との契約で決まるものであり、
87万2800円が当然に相当な報酬額とは言えないとして、更正請求減額(352万1300円)の10%である35万2130円の支払いのみ小規模宅地等の特例を適用しなかった税理士に命じ、
原告の請求を一部認めました。
③については、
①と②の損害賠償が認められれば、小規模宅地等の特例を適用しなかった税理士が小規模宅地等の特例を適用して、適切に業務を行った場合と同様の利益状態になるという理由で、
原告の請求を認めませんでした。
なお、本件訴訟では、
遺言執行者であった弁護士も、小規模宅地等の特例を適用しなかった税理士に依頼したということについて、善管注意義務違反を理由として、上記の①、②、③の金額を支払えという請求をされていました。
しかしながら、弁護士に対する①、②、③の額の請求は、全て棄却されました。(③については、小規模宅地等の特例を適用しなかった税理士も賠償義務が無いとされましたが)
ただ、弁護士は、遺言執行者として、相続財産から支出すべきでない費用を支出したとして、税理士とは無関係の7万2600円の支払いを命じられています。