賃借人が借りている部屋を勝手に改造したため立ち退き請求
賃借人であるテナントが借用している複数の部屋のうち一つの部屋の真ん中に壁を築造し2室にしてしまったほか、他の賃借人と共同で使う共用部分(廊下、階段など)の一部を物置などの用途で独占的に占有していました。
建物の賃貸借契約については借地借家法という法律が借主を守っており、大家には原則として借主を立ち退かせる権利がありません。
定期借家契約という特別な契約をしていないと(ほとんどの借家契約は定期借家契約をしていません)、契約期間が経過しても法定更新といって自動的に契約更新されてしまうので、契約期間が来ても立ち退かせることができません。
例外的に大家が借主を立ち退かせることができるのは、次の2つの場合だけです。
①大家に借主を立ち退かせるだけの正当事由がある場合
②借主が大家との信頼関係を破壊するような行為をした場合
①の正当事由があると言えるためには、たとえば、大家自身の家が災害などに遭って住めなくなったので貸している物件に住まざるを得なくなったというような強い理由が必要です。
ただ単に、建物が老朽化しているからとか、賃貸借経営が苦しいとかだけでは正当事由にはなりません。また、正当事由がある場合でも、結構多額の立退料と引き換えでないと立ち退き請求が認められないことも多いです。
②の信頼関係を破壊するような行為と言えるためには、単に賃料を延滞したとか、勝手に部屋を改造したというだけでは足りません。
賃料の滞納が信頼関係を破壊していると言えるほど酷い場合(半年分支払いがないとか)や部屋の改造が信頼関係を破壊したと言えるほど酷い場合でなければ立ち退き請求できません。すぐに元に戻せる程度の改造ですと信頼関係を破壊したとまでは言えないとして立ち退き請求が認められないことになります。
そして、立ち退き請求訴訟では、大家の立ち退きを求める理由が正当事由と言えるかや、借主の行為が信頼関係を破壊したとまで言えるかが争われることになります。
この案件では、借主がやった部屋の改造行為や共用部分の独占的使用の程度がそれなりに酷く、立ち退き請求が認められるのではないかと思われる案件でしたが、ただ、一定額の立退料の支払いを条件付けられるおそれがありました。
また、借主としても、商売のためにテナントとして借りているので、仮に立退料をいくらかもらったとしても、すぐに新しい賃借物件を見つけ出せるかどうかという問題がありました。
そこで、最終的には、大家が立退料を支払わない代わりに、借主は2年間は借りていて良い。その代わり、2年後には必ず出ていくという定期借家契約を裁判上の和解で締結しました。定期借家契約は、上に書いたように、契約期間が経過したら、借主は必ず出ていかなくてはならず、法定更新(自動更新)されない借家契約です。
この定期借家契約の和解によって、大家は立退料を支払うことなく、また、借主は新しく賃借する物件を2年という余裕のある期間をかけて探すことができるという双方にとって利益ある結果にすることができました。